2026.08.07「話す」より大切なことがありました。3つ目のT「Take Turns」が教えてくれること
これまで2回にわたり、『3000万語の格差』で紹介されている3つのTのうち、「Tune In」と「Talk More」をご紹介してきました。
-
Tune In … 子どもの世界に意識を向けること
-
Talk More … 子どもの興味に寄り添って言葉を届けること
そして、最後のTがTake Turnsです。
直訳すると、「順番にやり取りをする」。
一見すると、とても当たり前のことのように思えます。
でも、この「やり取り」こそが、子どもの脳の発達にとって、とても大切な意味をもっているのです。
コミュニケーションは「キャッチボール」
大人同士の会話を思い浮かべてみてください。
一方的に一人だけが話し続ける会話は、あまり心地よいものではありませんよね。
相手が話し、
自分が聞き、
また自分が話し、
相手が応える。
こうしたキャッチボールがあるからこそ、「会話」になります。
赤ちゃんとのコミュニケーションも同じです。
もちろん、赤ちゃんはまだ言葉を話せません。
でも、よく見てみると、赤ちゃんは毎日たくさんの「ボール」を投げています。
視線。
表情。
笑顔。
指差し。
声(クーイングや喃語)。
身振り。
泣くことさえ、大切なメッセージです。
Take Turnsとは、それらを受け取り、「ちゃんと届いたよ」と返すことなのです。
「応答」が脳を育てる
近年の乳幼児発達研究では、子どもが発信し、大人が応答するやり取りが、脳の神経回路を育てることが繰り返し示されています。
ハーバード大学が提唱するServe and Returnも、その代表的な考え方です。
子どもが「サーブ(発信)」し、大人が「リターン(応答)」する。
この繰り返しによって、脳の神経回路は強く結びついていきます。
つまり、大切なのは「話す量」ではなく、「やり取りの回数」なのです。
まだ言葉がなくても、やり取りはできる
ここで、多くの方がこんな疑問をもつかもしれません。
「でも、まだ言葉を話せない赤ちゃんとは、どうやってやり取りをするの?」
実は、赤ちゃんは言葉を話し始める前から、自分の気持ちや興味を一生懸命伝えています。
例えば、
コップを見つめる。
犬を指差す。
もっと遊びたくて両手を伸ばす。
「もう一回!」と言いたくて笑顔になる。
そんな一つひとつのサインを大人が受け取り、応えることで、やり取りは生まれます。
そして、その「伝わった」という経験が、次のコミュニケーションへの意欲につながっていきます。
ベビーサインも「Take Turns」を育てる方法のひとつ
私は20年以上、ベビーサインに携わってきました。
ベビーサインというと、「手話を教えるもの」というイメージをもたれることがあります。
でも、私が一番大切だと思っているのは、そこではありません。
ベビーサインの価値は、やり取りが増えることにあります。
まず、日々の生活の中で、ベビーサインを添えながら大人が語りかけます。すると、赤ちゃんは次第に、その手の動きに意味があることを理解して、やがて、自分でベビーサインを使い始めます。
例えば、毎日の授乳の際に
「今からミルク飲むよ」「おっぱい飲もうね」
と言いながら、【おっぱい・ミルク】のベビーサインを見せる。

すると、ある日、赤ちゃんはお腹がすいたら、泣いたり愚図ったりする代わりに【おっぱい】のベビーサインで教えてくれるようになります。
それを大人が
「あーおっぱい飲みたいんだね。ちょっと待ってね」
とベビーサインと言葉で受け止める。
こうして、赤ちゃんは「伝わった!」と感じ、また伝えようとする。
この繰り返しは、まさにTake Turnsそのものです。
だから私は、『3000万語の格差』を読みながら、「ベビーサインは、このTake Turnsを自然に増やすコミュニケーションなのだ」と、あらためて感じました。
「話せるようになる前」から、会話は始まっている
私たちは、「言葉が出たら会話が始まる」と考えがちです。
でも、本当にそうでしょうか。
赤ちゃんは、生まれたその日から、大人と関わろうとしています。
視線を送り、
表情を見つめ、
声を聞き分け、
笑顔を返す。
その一つひとつに大人が応えることで、赤ちゃんは「コミュニケーションは楽しい」「伝えれば応えてもらえる」ということを学んでいきます。
そして、そこに、ベビーサインがあることで、赤ちゃん自身が想いを発信することができるようになるんです。やり取りをわかりやすくスタートできる!
言葉は、そのずっと先に育ってくるものです。
おわりに
『3000万語の格差』というタイトルからは、「どれだけ多く話しかけるか」がテーマのように思えます。
でも、3つのTを読み進めて感じたのは、そうではありませんでした。
まず子どもの世界に入る(Tune In)。
その世界を言葉で豊かにする(Talk More)。
そして、お互いにやり取りを重ねる(Take Turns)。
この3つがそろって初めて、「豊かな言葉環境」が生まれるのです。
そして、その考え方は、近年の乳幼児発達研究が示している「応答的なコミュニケーション」の重要性とも重なっています。
「3000万語」という数字だけでは見えてこない、本当に大切なメッセージは、ここにあるのではないでしょうか。

最近の記事
- 「話す」より大切なことがありました。3つ目のT「Take Turns」が教えてくれること「話す」より大切なことがありました。3つ目のT「Take Turns」が教えてくれること
- 「たくさん話しかければいい」は誤解? 2つ目のT「Talk More」が本当に伝えたいこと「たくさん話しかければいい」は誤解? 2つ目のT「Talk More」が本当に伝えたいこと
- 脳を育てる最初のT「Tune In」とは?脳を育てる最初のT「Tune In」とは?
- 「3000万語の格差」は、本当に「たくさん話しかけること」で解決なの?「3000万語の格差」は、本当に「たくさん話しかけること」で解決なの?
- 子どもの視野は、大人とはこんなに違う〜「見えているはずなのに気づかない」には理由がありました〜子どもの視野は、大人とはこんなに違う〜「見えているはずなのに気づかない」には理由がありました〜








