2026.09.011歳の赤ちゃん、もう「人を助ける」をしていた?
赤ちゃんは「お世話されるだけの存在」じゃなかった
赤ちゃんって、まだ何もできない。
大人がごはんを食べさせて、着替えさせて、危険から守ってあげる。
そんなふうに、「赤ちゃん=お世話される存在」と考えるのは、ごく自然なことですよね。
でも、乳幼児の発達研究を見ていると、時々、
「えっ、もうそんなことをしているの?」
と驚かされることがあります。
今回ご紹介したいのは、その一つ。
なんと、1歳前後の赤ちゃんが、すでに「人を助ける」行動をしているという研究です。
しかも、「ママのお手伝いをしてね」と教えられたわけでもありません。
1歳の赤ちゃん、8割以上が「助けた」
2024年に発表された研究では、11~20か月の乳幼児220人を対象に、どのくらいの子どもが人を助ける行動をするのかが調べられました。
その結果、12か月児153人のうち、80%以上の赤ちゃんが、実験者が手の届かないところにある物を取ろうとする場面で、助ける行動を見せたのです。
「えっ、1歳って、もうそんなことするの?」
と思いませんか?
しかも、この研究では、実験者が「取って」とお願いするのを待って助けたわけではありません。
研究では、赤ちゃんが助けた場合、その多くが最初の20秒以内に起こっていました。
つまり、言葉で「助けて」と頼まれる前に、赤ちゃん自身が状況を見て行動していたのです。
もちろん、ここから
「1歳児は大人と同じように相手の気持ちを理解している」
と考えるのは早すぎます。
ここは、とても大切なところ。
研究で見られたのは、主に**instrumental helping(道具的援助)**と呼ばれる行動です。
たとえば、
「大人が物を取ろうとしている」
↓
「その物が届かない」
↓
「赤ちゃんが物を持ってきてあげる」
というような、
「相手がやろうとしていることを手伝う」
という行動です。
「やさしい子だから」だけでは説明できない
ここが、この研究を読むときに面白いところです。
私たちは子どもが誰かを助けると、
「やさしいね」
「いい子だね」
と言いたくなります。
もちろん、それは素敵なこと。
でも、発達心理学では、
「なぜ、こんなに早い時期から助ける行動が出てくるの?」
ということを考えます。
実は、こうした「助ける」行動については、2000年代からさまざまな研究が行われてきました。
WarnekenとTomaselloの研究では、18か月の子どもたちが、大人が物を落としたり、扉を開けようと困っていたりする場面で、頼まれていないのに助ける行動を示しました。しかも、必ずしも報酬をもらうためではありませんでした。
さらに、その後の研究から、こうした「助ける」行動は、もっと早い時期から見られることが分かってきました。
現在では、生後1年頃から、他者の目標を達成するための手助けが現れることが示されています。
ただし、「助ける」にも発達がある
ここがまた面白いところです。
「人を助ける」と一言で言っても、実は発達していきます。
最初の頃に見られるのは、
「あの人が何かしようとしている。じゃあ、その物を取ってあげよう」
というような、行動を助けるタイプ。
その後、発達が進むにつれて、
「この人、困っているみたい」
「悲しそうだから、慰めてあげよう」
というような、相手の感情や状態に応じた援助も増えていきます。
研究では、こうした**「行動の目標を助ける」ことから、「相手の苦痛を和らげる」ような援助へ**という発達的な変化が指摘されています。
つまり、
「助ける」という行動そのものにも、心の発達の階段がある。
ということなんです。
じゃあ、赤ちゃんは何を見ているの?
赤ちゃんは、ただ「物」を見ているわけではないのかもしれません。
「この人は、何をしようとしているんだろう?」
ということにも、少しずつ目を向けている。
もちろん、1歳の赤ちゃんが大人と同じように相手の心を読んでいるわけではありません。
でも、
「手が届かない」
「取ろうとしている」
「困っている」
といった状況を見て、自分の行動を変える。
そこには、
「自分」だけではなく、「相手」へ向かう心の動き
が見えてきます。
そして、これは乳幼児期の「社会性」を考えるうえで、とても大事なポイントだと思うのです。
赤ちゃんは「伝えてもらう側」だけじゃない
ここで、ベビーサインにもつながってきます。
赤ちゃんとのコミュニケーションというと、
「大人が赤ちゃんに話しかける」
「大人が赤ちゃんに教える」
という、大人から赤ちゃんへの方向を考えがちです。
でも、赤ちゃんはもっと早い時期から、
自分から人に働きかけています。
たとえば、
「これ、取って」
「これが欲しい」
「もっと」
「見て!」
という、自分の気持ちや要求を伝える。
さらに発達すると、
「ママ、これだよ」
「パパ、ここにあるよ」
というように、相手に情報を伝えるためのコミュニケーションも出てきます。
12か月頃の乳児が、相手が探している物の場所を指差して知らせることを調べた研究もあります。
ここまでくると、
「コミュニケーション=自分の要求を伝えること」
だけではないことが見えてきます。
人に何かを伝える。
人の行動を助ける。
人と一緒に何かをする。
そうやって、少しずつ「人と人との関係」ができていく。
「お手伝いして」と言わなくても、赤ちゃんは見ている
だから、赤ちゃんが何かを拾ってくれたとき。
大人が落としたものを持ってきてくれたとき。
洗濯物を触っているとき。
お片付けをまねしているとき。
つい、
「危ないよ」
「まだできないよ」
と止めてしまうこともあります。
もちろん、安全に関わることは止めてOKです。
でも、安全に問題がないことであれば、
「何をしようとしているのかな?」
と、一度見てみる。
そして、
「持ってきてくれたの?」
「ありがとう」
「助かったよ」
と返してみる。
それだけでも、
「自分の行動が、人の役に立った」
という経験になります。
「いい子だから助けた」ではなく、「人と関わる力」が育っている
ここは、子育てで大切にしたい視点だと思います。
「助けたから、いい子」
ではありません。
「お手伝いできたから、えらい」
でもありません。
むしろ、
「あなたは、人と関わることができるよ」
というメッセージとして受け取ってみる。
赤ちゃんが何かを持ってきたら、
「○○ちゃんが持ってきてくれたんだね」
と、その行動に気づく。
赤ちゃんがベビーサインで何かを伝えてきたら、
「○○って教えてくれたんだね」「そうだね。○○だね」
と言葉とベビーサインで返す。
そうすると、
「私が何かすると、相手が返してくれる」
という、人とのやりとりの感覚が少しずつ積み重なっていきます。
これは、単に「できることが増える」という話とは少し違います。
「自分は人と関われる」
という感覚です。
赤ちゃんを見る目が、少し変わるかもしれない
「赤ちゃんは、まだ何もできない」
そう思っていると、
泣いたらあやす。
お腹がすいたら食べさせる。
眠かったら寝かせる。
というように、どうしても「お世話」が中心になります。
でも、
「この子は今、私と何をしようとしているんだろう?」
という目で見てみると、少し景色が変わります。
こちらを見ている。
手を伸ばしている。
物を渡してくる。
こちらのまねをする。
何かを知らせようとする。
助けようとする。
赤ちゃんは、思っている以上に早くから、
「人と一緒に世界をつくる側」
になっているのかもしれません。
そして、ベビーサインを考えるときにも
私はここが、とても大切だと思っています。
ベビーサインは、
「赤ちゃんに言葉を教える方法」
だけではありません。
赤ちゃんがまだ話せない時期から、
「私はこう思っているよ」
「これを伝えたいよ」
と、自分から人に働きかけるための手段の一つです。
そして、大人がそれを受け取って、
「そうなんだね」
「教えてくれてありがとう」
と返す。
その繰り返しの中で、
「伝えるって楽しい」
「伝えると、誰かが応えてくれる」
という経験が生まれる。
だから私は、ベビーサインを「サインをいくつ覚えたか」だけで見てほしくないのです。
そのサインの向こう側にある、
「人とつながる力」
にも、ぜひ目を向けてほしいと思っています。
赤ちゃんは、今日も何かを「伝えよう」としている
もしかしたら今日、
あなたの赤ちゃんが何かを拾って持ってきてくれるかもしれません。
あなたが探しているものを指差して教えてくれるかもしれません。
手を伸ばして、「こっち」と知らせてくれるかもしれません。
そんなとき、
「何してるの?」
で終わらせずに、
「あ、教えてくれたんだね」
「手伝ってくれたんだね」
と、その小さな行動を受け取ってみる。
赤ちゃんの中には、私たちが思っているよりずっと早くから、
「人と関わりたい」
「人に伝えたい」
「人の役に立ちたい」
という力の芽が育っているのかもしれません。
そして、その芽を見つけて、
「ちゃんと見ているよ」
と返してあげること。
それもまた、乳幼児期の大切なコミュニケーションなのだと思います。
参考文献
Donohue, M. R., Hennefield, L., & Rogers, C. R. (2024). Prevalence and characteristics of infants’ prosocial helping strategies between 11 and 20 months of age. Developmental Psychology, 61(2), 215–227.
Warneken, F., & Tomasello, M. (2006). Altruistic helping in human infants and young chimpanzees. Science, 311(5765), 1301–1303.
Warneken, F., & Tomasello, M. (2007). Helping and cooperation at 14 months of age. Infancy, 11(3), 271–294.
※今回の研究で確認されているのは主に、相手の行動上の目標を助ける「道具的援助」です。そこから、より感情に寄り添った援助へと発達していくことが示されています。








