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2026.07.26なぜ赤ちゃんには、自然と声が高くなるの?──世界中にある「お母さん語」の不思議

赤ちゃんを前にすると、不思議なことが起こります。

「かわいいね~!」

「すごいね~!」

「じょうず、じょうず!」

気づけば、いつもより少し高い声で、ゆっくり、表情豊かに話しかけている自分がいませんか?

「私は赤ちゃん言葉は使わないようにしています。」

という方でも、話し方そのものは自然と変わっていることが多いのではないでしょうか。

実は、この話し方には名前があります。

Infant-directed speech(乳児向け発話)

日本では「マザリーズ」や「お母さん語」「育児語」と呼ばれることもあります。

そして驚くことに、この話し方は日本だけではありません。

世界中のさまざまな文化で共通して見られることが分かっています。

世界中の親は、赤ちゃんにだけ話し方を変えていた

赤ちゃんに話しかけるとき、私たちは自然と、

・少し高い声になる

・ゆっくり話す

・抑揚が大きくなる

・同じ言葉を繰り返す

・笑顔で目を合わせる

そんな話し方になります。

例えば、目の前の赤ちゃんを食事に誘うとき

「○○さん、食事の用意ができました。着席して食べてください。」

なんて、言わないですよね。

「○○ちゃん、ご飯できたよ。お座りして、食べよっか」

って自然と話かけますよね。

しかも、面白いことに、これは誰かに教わったわけではありませんよね。

2022年に発表された国際共同研究では、6大陸・21の文化圏で録音された音声を分析した結果、赤ちゃんへの話しかけ方や歌いかけ方には、文化を超えて共通する特徴があることが報告されました。

言葉も文化も違うのに、赤ちゃんに向ける声は、とてもよく似ていたんです。

なぜ、わざわざ話し方を変えるのでしょう?

以前は、「赤ちゃんに分かりやすく話しているだけ」と考えられていました。

もちろん、それも大切な理由の一つです。

でも最近では、それだけではないことが分かってきています。

マザリーズには、

「今からあなたに話しかけるよ。」

という合図のような役割があると考えられています。

実際に研究では、赤ちゃんは大人同士の会話よりも、マザリーズのような話し方に、より長く注意を向けることが繰り返し報告されています。

つまりマザリーズは、赤ちゃんの注意を引きつけ、人とのコミュニケーションを始めるための、大切なきっかけになっているんです。

言葉だけを伝えているわけではない

私たちは、赤ちゃんに話しかけるとき、言葉だけを届けているわけではありませんよね。

優しい声のトーン。

豊かな表情。

目線。

間の取り方。

笑顔。

赤ちゃんは、そのすべてを受け取っています。

だから、マザリーズは「言葉を教える技術」というより、「あなたとやり取りしたいよ」という気持ちを伝えるコミュニケーションそのものなのかもしれません。

ベビーサイン教室でも、同じことが起きていました

私は20年以上、ベビーサインをとおして、たくさんの親子と出会ってきました。

その中で感じてきたのは、ベビーサインを見せるときも、保護者の話し方が自然と変わることです。

ゆっくり、表情をつけて、声のトーンを変えて、赤ちゃんの目を見ながら。

誰かに教わったわけでもないのに、多くの保護者が自然とそんな関わり方になります。

今回、マザリーズの研究を読みながら、「だからだったのか」と思いました。

赤ちゃんは言葉だけを聞いているのではなく、コミュニケーション全体を受け取っているのです。

ここで、ちょっと自慢したいこと

実は、この「お母さん語」は、音声だけの話ではありません。

手話を母語とする、ろうのお母さんたちにも、赤ちゃんに向けた特別な「手話版のお母さん語」があることが報告されています。

20年以上前、私と主人は「ベビーサインを赤ちゃんにとって分かりやすく、親子で楽しく伝えるにはどうしたらいいのだろう?」と試行錯誤していました。

そのときに出会ったのが、「手話版のお母さん語」の研究や、ろうのお母さんたちのコミュニケーションでした。

そこからヒントを得て形になったのが、日本ベビーサイン協会で20年以上大切に伝えてきた「教え方のコツ」です。

次回は、手話版のお母さん語の研究とともに、その原点についてご紹介したいと思います。


今回紹介した主な研究

Hilton, C. B., et al. (2022). Acoustic regularities in infant-directed speech and song across cultures. Nature Human Behaviour.
DOI: 10.1038/s41562-022-01410-x

ManyBabies Consortium (2020). Quantifying sources of variability in infancy research using the infant-directed-speech preference. Advances in Methods and Practices in Psychological Science.
DOI: 10.1177/2515245920974699