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2026.08.17歌っているだけなのに、こんなことまで?乳幼児の「歌」の中にある、ことばとやりとりの力

『3000万語の格差』を読みながら、私が「これ、面白いな」と思ったことの一つが、子ども向けの歌についての話でした。

本の中では、歌には、

  • 普段の会話ではあまり使わない言葉

  • 数に関する言葉や概念

  • 空間に関する言葉

  • 繰り返しやパターン

などが含まれていて、子どもがさまざまな言葉や概念に触れる機会になることが紹介されています。

でも、ここで誤解してほしくないのは、

「この歌を歌えば、○○の能力が伸びます!」

という話ではない、ということ。

むしろ私が面白いと思ったのは、

いつも何気なく歌っている歌の中に、実は子どもが言葉や概念に出会うきっかけが、たくさん隠れている。

ということなんです。

そして、そこに『3000万語の格差』で紹介されている3つのTを重ねると、さらに面白くなります。


まずは「3つのT」をおさらい

3つのTとは、

Tune In

子どもが今、何に興味を向けているのかに気づくこと。

Talk More

子どもが興味を持っていることについて、言葉を少し広げていくこと。

Take Turns

大人が一方的に話すのではなく、子どもと交互にやりとりすること。

です。

これまでの記事でも書いてきましたが、これは「親が頑張って子どもに言葉を教えるための方法」ではありません。

むしろ、

子どもが今、楽しんでいることに大人も入っていく。

そのための考え方です。

そして、歌はこの3つのTが自然に起こりやすい遊びの一つなんです。


歌の中には「普段と違う言葉」がいっぱい

たとえば、少し年齢が上がりますが、

♪たなばたさま

という歌があります。

「五色の短冊」
「笹の葉」
「軒端」

など、子どもとの普段の会話では、なかなか出てこない言葉があります。

でも、歌なら何度も繰り返し耳にします。

そして子どもが、

「たんざくってなに?」

と聞いてきたら、

「お願いごとを書く紙だよ」

と話を広げることができる。

歌が、新しい言葉との出会いになるわけです。


でも、もっと小さな子どもの歌にも「言葉の種」はある

では、0~2歳くらいの子どもが楽しむ歌ではどうでしょう?

私は、ここも面白いと思います。

たとえば、

♪魚がはねて

「はねる」
「くっつく」

といった、動作を表す言葉が出てきます。

しかも、歌いながら実際に身体を動かすことができます。

「ぴょーん!」

と手を動かしたり、

「頭にくっついた!」

と頭を触ったり。

すると、

言葉を「聞く」だけではなく、身体を動かしながら経験する

ことができます。


「かえるのうた」には、「聞こえる」がある

♪かえるのうた

も、赤ちゃんと一緒に楽しみやすい歌ですよね。

ここで面白いのが、

「聞こえてくるよ」

という言葉。

「聞こえる」って、普段の会話では意外と意識して使っていない言葉かもしれません。

外から音が聞こえてきたときに、

「何か聞こえるね」

「カエルさんかな?」

と、歌をきっかけに**「聞く」という感覚に言葉を添える**こともできます。


「大きな栗の木の下で」には、空間の言葉

そして、みんながよく知っている、

♪大きな栗の木の下で

ここには、

「大きな」
「木」
「下」

という言葉があります。

特に「下」というのは、空間的な位置関係を表す言葉。

歌いながら実際に身体を動かして、

「上!」
「下!」

と遊んでみることもできます。

「木の下にいるね」

と、実際に公園などで木を見つけたときに思い出すこともできます。

これも、

歌の言葉が、実際の体験につながっていく

という面白さがあります。


「幸せなら手をたたこう」は、パターンの宝庫

そして、本の中で紹介されている「BINGO」のように、同じパターンを繰り返しながら、一部分が変わっていく歌

日本で親しみのある歌なら、

♪幸せなら手をたたこう

が分かりやすいですね。

「手をたたこう」

「足ならそう」

「肩たたこう」

と、基本の形は同じまま、動作が変わっていきます。

子どもは、

「次は何かな?」

と予測しながら参加できます。

これは、ただ歌詞を覚えるだけではなく、

「同じところ」と「変わるところ」に気づく

という楽しさがあります。


わらべ歌にも、こんな「やりとり」がいっぱい

さらに、わらべ歌には、親子や子ども同士で交互に動く・まねする・繰り返すものがたくさんあります。

たとえば、

♪おちゃらかほい

相手の動きを見て、自分も動く。

大人がやったら子どもがまねする。

今度は子どもが動いて、大人がまねする。

これはまさに、

Take Turns

です。

歌っているだけに見えても、実際には、

「相手を見る」
「相手の動きを予測する」
「自分の番を待つ」
「相手に合わせて動く」

という、たくさんのやりとりが起こっています。


だから、歌は「3つのT」と相性がいい

ここまで見てくると、歌の中に3つのTが自然に入っていることが分かります。

🎵 Tune In

子どもが歌を聴いている。

手を動かしている。

身体を揺らしている。

笑っている。

まずは、そんな子どもの反応を見る


🎵 Talk More

「大きな栗だね」

「木の下だね」

「ぴょーんって跳ねたね」

「何が聞こえるかな?」

と、子どもが今楽しんでいることに言葉を添える。


🎵 Take Turns

大人が歌う。

子どもが動く。

大人がまねする。

子どもがまた返す。

歌そのものが、親子のやりとりになります。


「歌を聞かせる」から「一緒に歌う」へ

ここは、けっこう大きな違いです。

「子どものために、良い歌を聞かせなきゃ」

と思う必要はありません。

もちろん、歌を聴くことも楽しい。

でも、3つのTという視点で見ると、

大人と子どもが一緒に歌う。

そこに、もっとたくさんのことが起こります。

子どもの表情を見る。

子どもの動きをまねする。

子どもの声に返事をする。

歌詞に出てきたものを実際に探してみる。

歌に合わせてベビーサインをする。

そうすると、歌が**「親子のコミュニケーションの道具」**になっていくんです。


そして、これは私たちが教室でやってきたこと

ここまで読んで、

「これ、まさにベビーサイン教室でやっていること!」

と思った方もいるかもしれません。

実は、ベビーサイン協会のお教室では、以前からみんながよく知っているわらべ歌や童謡のメロディーを使った手遊び歌を楽しんでいます。

たとえば、

「大きな栗の木の下で」のメロディーで

♪大きな おやまの てっぺんに♪
という歌詞に変えて、【山】のベビーサインを入れて歌います。また、

「はとぽっぽ」のメロディーで

グーとパーだけでできるベビーサインを4つ紹介しながら歌う替え歌もあります。

お教室のネタを考えなくちゃいけなかった20数年前、作曲する才能がなかった私は、みんなが聞いたことのあるメロディーに、使えそうなベビーサインを盛り込んだ歌詞をあてて、替え歌を何曲も作ったんです。

だから、

「新しい歌を覚えなきゃ」

ではありません。

「あ、このメロディー知ってる!」

というところから、一緒に参加できます。

そして、歌詞に合わせてベビーサインを使います。


歌の中で、サインを何度も楽しむ

ベビーサインって、

「このサインを覚えましょう!」

と練習するだけだと、ちょっと味気ないですよね。

でも歌になると違います。

同じ歌を何度も歌う。

同じサインが何度も出てくる。

大人がベビーサインをする。

赤ちゃんが見ている。

今度は赤ちゃんが手を動かしてみる。

そして、

「もう一回!」

と、また歌う。

こうして、ベビーサインそのものだけではなく、

「伝える → 受け取ってもらう → また返ってくる」

というやりとりを、繰り返し楽しむことができます。


教室だけで終わらせない

そして、私たちが大切にしているのが、

ご家庭でも同じように楽しめること。

教室で何度も繰り返し楽しんだ手遊び歌は、ご家庭でも楽しめるようにダウンロードできる形にしています。

教室では先生と一緒に。

お家ではママやパパと一緒に。

同じ歌を繰り返し楽しむ。

これって、実はとても大切なことだと思うんです。

赤ちゃんは、同じ歌を何度も聞くことで、

「あ、この歌知ってる!」

という感覚を持つようになります。

そして、ある日突然、

今まで見ているだけだった赤ちゃんが、

歌に合わせて手を動かしたり、

ベビーサインをしてみたりする。

そんな瞬間がやってくることがあります。


音楽は「脳を育てる魔法」ではありません

ここまで読むと、

「じゃあ、音楽ってやっぱり脳にいいの?」

と思うかもしれません。

音楽活動と子どもの認知・実行機能については、実際に研究されています。

2025年の系統的レビュー・メタ分析では、3~6歳の子どもを対象とした研究をまとめ、音楽トレーニングを経験した子どもは、そうでない子どもに比べて、抑制制御・ワーキングメモリ・認知的柔軟性といった実行機能に良い変化が見られたと報告されています。

ただし、これは、

「家で歌を歌えば、実行機能が伸びる」

という研究ではありません。

研究で調べられているのは、一定期間、継続的に音楽トレーニングを行った子どもたち。

つまり、

音楽を聴かせるだけで、子どもの能力が自動的に伸びる

という話ではないんです。

むしろ、音楽を使った活動の中には、

「集中する」
「覚える」
「音やリズムに合わせる」
「身体をコントロールする」
「相手の動きを見る」
「自分の番を待つ」

といった、さまざまな経験が含まれている。

だからこそ、研究の対象になるほど興味深い活動なんですね。


「何を教えるか」より、「一緒に何をするか」

そして、『3000万語の格差』の3つのTと、音楽の話を重ねてみると、私はこんなふうに感じます。

音楽そのものが魔法なのではありません。

歌を通して、大人と子どもが一緒に同じものを見たり、聞いたり、動いたり、笑ったりする。

そこに価値がある。

だから、

「この歌で○○を教えよう」

と考えるより、

「この歌、子どもはどんなところが好きなんだろう?」

と見てみる。

そして、子どもが反応したところに、

ちょっと言葉を足してみる。

ちょっとベビーサインを添えてみる。

ちょっと一緒に動いてみる。

それだけでいい。


今日の歌を、ちょっと違う目で見てみる

いつも歌っている歌を、今日はこんなふうに見てみませんか?

「この歌には、どんな言葉が出てくる?」

「どんな動きをする?」

「同じパターンはある?」

「子どもは、どこで一番楽しそうにする?」

そして、

「今、この子は私に何を返してくれている?」

と。

そうやって見てみると、

「ただ歌っているだけ」

だった時間が、

親子のやりとりがいっぱい詰まった時間

に見えてくるかもしれません。

歌う。

動く。

笑う。

ベビーサインする。

また歌う。

そんな何気ない繰り返しの中にも、子どもの発達を支える小さな種が、たくさん隠れているのです。

そして私は、ベビーサイン教室で長年やってきた**「みんなが知っている歌×ベビーサイン」**も、そんな親子のやりとりを生み出す一つの方法だと思っています。

教えるための歌ではなく、一緒に楽しむための歌。

それが、赤ちゃんとのコミュニケーションを豊かにしてくれるのではないでしょうか。


参考にした研究・書籍

  • ダナ・サスキンド『3000万語の格差―赤ちゃんの脳をつくる、親と保育者の「話しかけ」』明石書店

  • 3~6歳児の音楽トレーニングと実行機能に関する2025年の系統的レビュー・メタ分析

  • 乳幼児期の音楽的な親子のやりとりに関する研究