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2026.09.15赤ちゃんにも「ずるい!」がある?

「公平・不公平」がわかり始めるのは、もっと早かった

兄弟がいると、こんな場面ありませんか?

「お兄ちゃんのほうが大きい!」

「なんで私のは少ないの?」

「ずるい!」

大人からすると、

「はいはい、同じにするからね」

と対応したくなる場面です。

でも、ちょっと考えてみてください。

そもそも子どもは、いつから「公平」と「不公平」を気にするようになるのでしょう?

「ずるい!」と言葉で言えるようになってから?

それとも、もっと前から?

実は、発達心理学の研究を見ていくと、

赤ちゃんの時期から、すでに「公平・不公平」に反応している可能性

が見えてきます。


1歳くらいの赤ちゃんに「どっちがずるい?」と聞いたら……

もちろん、1歳の赤ちゃんに、

「これは公平ですか?」

なんて聞いても答えられません。

そこで研究者が使うのが、赤ちゃんの**「見る時間」**を調べる方法です。

赤ちゃんに、

「AさんとBさんに同じ数のものが配られる場面」

と、

「Aさんにはたくさん、Bさんには少ししか配られない場面」

を見せます。

すると、赤ちゃんがどちらを長く見るのかを調べる。

赤ちゃんが不公平な場面を長く見たとしたら、

「あれ?思っていたのと違う」

と感じた可能性があります。

もちろん、

「赤ちゃんが頭の中で『ずるい!』と言っている」

と直接証明できるわけではありません。

でも、こうした「予想外の出来事に長く注目する」という反応から、赤ちゃんが何を期待していたのかを推測することができます。


「同じように分ける」と思っていた?

2011年のGeraciとSurianの研究では、12~18か月の乳幼児を対象に、物が公平・不公平に分配される場面への反応を調べました。

その結果、赤ちゃんたちは、単に「物の数が違う」ことだけではなく、人に対する分配の結果に注目していることが示されました。

研究者たちは、この結果から、乳幼児期にはすでに、社会的な場面での公平さに関する感受性が現れている可能性を指摘しています。

つまり、

「1歳なんて、まだ自分のことしか考えていない」

とは、どうやら言い切れないみたいです。


じゃあ、もっと小さい赤ちゃんは?

ここが、さらに面白いんですけど。

2017年のZivとSommervilleの研究では、生後6~15か月の赤ちゃん150人を対象に、公平な分配と不公平な分配への反応を調べました。

その結果、6~12か月の間に、公平・不公平への期待が変化していくことが示されたんです。

特に12~15か月頃の赤ちゃんは、

「2人に2個ずつ」

という公平な分配より、

「1人に3個、もう1人に1個」

という不公平な分配に長く注目しました。

ここで大事なのは、

「赤ちゃんが大人と同じ意味で公平を理解している」

ということではありません。

研究で見えているのは、

「人に物を分ける場面では、同じくらいに分けられることを期待しているようだ」

ということ。

この違いは、とても大切です。


さらに驚くのは「誰が公平だったか」まで見ていること

公平・不公平への反応は、単に「物の数が違うのが気になる」という話だけではありません。

研究では、赤ちゃんが、

「誰が公平に分けたのか」

にも注目することが示されています。

たとえば、

Aさん:2人に同じように分ける

Bさん:一方に多く、もう一方に少なく分ける

という場面を見たあと、どちらの人と関わりたいかを選ばせる。

すると、乳幼児は公平に振る舞った人を好む傾向を示す研究があります。

さらに、乳幼児の「公平な人/不公平な人」への評価を調べた研究をまとめたメタ分析では、4~32か月の子どもを対象とした研究から、およそ3人に2人が、反社会的な行動をする人より、助けたり公平に振る舞ったりする人を選ぶという結果が報告されています。

これには、ちょっと驚きませんか?

赤ちゃんは、

「この人、なんだか好き」

というだけではなく、

「この人は他の人にどう接したのか」

という情報を、人との関わり方を考える材料にしている可能性があるのです。いや~しっかり、私たちの行動、見られてますね!


でも、「赤ちゃんは道徳的に正しい」とは限らない

ここは、すごく大事です。

「赤ちゃんにも公平感がある」

と聞くと、

「じゃあ、生まれつき正義感があるってこと?」

と思いたくなります。

でも、そんなに単純ではありません。

研究者たちも、乳幼児の公平への感受性と、年長児や大人の「公平についての道徳的判断」は区別しています。

たとえば、乳幼児は不公平な人を見て、

「なんか嫌だ」

と感じるような反応を示すことはあっても、

「この人は悪いことをしたから罰を与えよう」

と、自発的に罰するわけではありません。

つまり、

「公平に反応すること」と「公平について大人のように考えること」は、同じではない。

公平感の「芽」が早い時期から見られる。

でも、その芽が育って、

「どうして公平じゃないといけないの?」

「今回は同じにするべき?それとも頑張った人を多くするべき?」

と考えられるようになるまでには、長い発達があります。


実は、「同じ」と「公平」は同じじゃない

ここからが、子育てではとても面白いところです。

大人はつい、

公平=みんな同じ

と考えてしまいます。

でも、年齢が上がってくると、

「弟はまだ小さいから少なくていい」

「たくさんお手伝いした人が多くもらってもいい」

「病気の人には多く必要かもしれない」

など、

「同じにすること」と「公平にすること」は違う

と理解するようになります。

実際、幼児期の公平感についての研究では、子どもは成長するにつれて、単純な「同じ」だけではなく、努力や状況などの情報を考慮するようになっていくことが示されています。

つまり、

公平感そのものも、発達していくんですね。


「ずるい!」は、心の発達のサインかもしれない

そう考えると、子どもの、

「ずるい!」

という言葉も、ちょっと違って見えてきます。

もちろん、毎回すべての「ずるい!」が、本当に公平性の問題とは限りません。

「自分も欲しい!」

という気持ちが、「ずるい!」という言葉になっていることもあります。

でも、その背景には、

「人と自分を比べる」

「同じように扱われているかを見る」

「自分と相手の取り分を比べる」

という、新しい社会的な視点が育っている可能性があります。

だから、

「また、ずるいって言ってる!」

と片付けるのではなく、

「そうか。今、○○ちゃんは『同じじゃない』ことに気づいたんだね」

と、その気づきを言葉にしてあげるのも一つの方法です。


そして、ここでも「人との関係」が出てくる

前回の記事では、

1歳の赤ちゃんが、すでに人を助ける行動を見せる

という研究をご紹介しました。

今回の「公平」の研究も、実は同じところにつながっています。

赤ちゃんは、

「自分が何をもらえるか」

だけを見ているわけではない。

少しずつ、

「人と人との間で、何が起きているのか」

を見るようになっている。

誰かが助けている。

誰かが困っている。

誰かに多く配られた。

誰かが公平に扱われた。

そして、

「この人はどんな人なんだろう?」

と、人の行動を見ながら学んでいく。

乳幼児の社会性というと、

「お友達と仲良く遊べるようになる」

くらいに考えがちですが、

そのずっと前から、

「人と人との関係」を理解するための土台

が育っているんですね。


ベビーサインの視点から見ると、ここも面白い

ここで、ベビーサインにも少しつながってきます。

ベビーサインで大切なのは、

「このサインを覚えました!」

だけではありません。

赤ちゃんが、

「私はこう思っている」

「これが欲しい」

「もっと」

「こっち」

と、自分の気持ちや考えを人に伝える。

そして大人が、

「そうなんだね」

と受け取る。

すると、そこには、

「私は伝えることができる」

だけではなく、

「相手にも気持ちや考えがある」

という世界が少しずつ広がっていきます。

公平感も、その延長線上にあるのかもしれません。

「自分」だけではなく、

「自分と相手」

を見るようになる。

そして、

「人と人との間には、こういうことが起きる」

と学んでいく。


「みんな同じにしてあげる」だけじゃなくて

子育てをしていると、

「けんかしないように」

「取り合いにならないように」

「同じにしてあげよう」

と、大人が調整する場面も多いですよね。

もちろん、それが必要なこともあります。

でも、子どもが少しずつ「公平」に気づいていくなら、

「どうしてそう思ったの?」

「○○ちゃんはどう思っているかな?」

「同じにするのがいいのかな?」

と、一緒に考えることもできます。

「公平とは何か」を小さい子どもに講義する必要なんてありません。

むしろ、

日常の小さな「ずるい!」が、社会について考える入り口になる。

そう考えると、兄弟げんかやお友達とのトラブルも、少し違って見えてきます。


赤ちゃんは「自分の世界」から「人のいる世界」へ

乳幼児の発達を研究していると、

「赤ちゃんって、こんなに早くから人のことを見ているんだ」

と驚かされることがあります。

人を助ける。

人が何をしようとしているのかを見る。

公平・不公平に反応する。

公平に振る舞った人を好む。

まだ言葉も十分に話せない時期から、

「人と人との関係」について学び始めている。

だから、私は赤ちゃんを、

「まだ何も分からない小さな人」

ではなく、

「人との関係の中で、世界を学び始めている一人の人」

として見ていたいと思うのです。


今日、子どもが「ずるい!」と言ったら

もし今日、

「ずるい!」

と言われたら。

すぐに、

「はいはい、同じにするから」

で終わらせる前に、

ちょっとだけ、

「何がずるいと思ったの?」

と聞いてみる。

もしかしたらそこには、

「自分と相手は違う」

「同じようにしてほしい」

「自分も大切にしてほしい」

という、いろいろな気持ちが隠れているかもしれません。

そして、そのもっとずっと前。

まだ「ずるい」という言葉を知らない赤ちゃんの中でも、

「人には公平・不公平というものがある」

という感覚の芽が、育ち始めているのかもしれない。

そう思うと、

赤ちゃんを見る目が、また少し変わってきませんか?


参考文献

Geraci, A., & Surian, L. (2011). The developmental roots of fairness: Infants’ reactions to equal and unequal distributions of resources. Developmental Science, 14(5), 1012–1020.

Ziv, T., & Sommerville, J. A. (2017). Developmental differences in infants’ fairness expectations from 6 to 15 months of age. Child Development, 88(6), 1930–1951.

Sommerville, J. A., et al. (2013). Do infants understand the relationship between distributive fairness and social evaluation?(公平な分配に関する乳幼児研究)

Graham, J., et al. / 関連研究レビュー:乳幼児期の公平感・向社会的行動の発達。

Margoni, F., & Surian, L. (2018). Infants’ evaluation of prosocial and antisocial agents: A meta-analysis. Developmental Psychology, 54(8), 1445–1455.